2013年8月30日金曜日

ライアンエアー、ベネチア、瀬戸内国際芸術祭、ブルゴーニュ

ヨーロッパで1番安いと聞いていた格安航空ライアンエアー(アイルランドが本拠地)に始めて乗った。パリとベネチア間である。飛行場はシャルル・ド.ゴールではなく、パリから1時間半くらいの田舎町ボーヴェ。この航空会社は大都市周辺の小さな町の飛行場を基地にしている。このことも興味があって使うことにしたのだが、ともかく、これはこれは。予想外のことが多すぎて、結局、たいして格安にならず、ほんと自分の旅行術の甘さにうんざり。旅行ではミスをしないという、旅行術検定1級(あるの?)のプライドが少し崩れてしまった。旅行術まだまだ奥が深い。これまで2度ほど、ヨーロッパの格安航空を使ったことがあったので、ライアンも同じだろうと思っていたら、それが、これこそ「格安」の見本、そして、規則を守らないと、けっこう高くなってしまう。規則にひどく厳しい会社なのだった。これまでの経験から規約をあまり読まなっかったせいで、エクストラ料金を取られてしまったのだ。腹立たしいのだが、「格安」と「経営」を両立させるには、こうした方法だということに感心して、旅行術マニアとしては勉強になった。その一端を。
チケット代、パリーベネチア往復52ユーロ(6800円ほど)とあったので、思わずHPから申込み。この料金も、申し込み時期、曜日によって違いがあり、帰りのパリへのフライトは、日曜日だったので、行きの倍の値段。ということは。金曜日のベネチア行きだけだと、2500円くらい。これはと思うよね。一緒に行った学生は、申込み時期が遅かったので「プライマリー・シート」になってしまい、ぼくより30ユーロ近く高くなった。そして、この基本チケット料金にいろいろな料金が加算されてくる(金額は小さいが、ネット料、カード決済料金等々)。もちろん、荷物を預けると15ユーロ取られるので(15キロまで)、手荷物(10キロ)だけにする(厳しい大きさの制限がある)。ただし、荷物預けを予約後に申し込むと倍の料金に。学生はそうなってしまったのだ。ましてや、空港カウンターで預けることになると、100ユーロも取られてしまう。すべては、ネットでの予約を完璧にしないと、予想外の料金になるのだ。ぼくたちは、そこで大失敗(ライアン的観点から)。
前に使った格安航空(バルセロナのVeulingともうひとつは名前を忘れたがスロバキアの格安)では、一般の航空会社と同じように、予約書(e-ticket)を空港カウンターで見せてチェックイン、つまり搭乗券をもらうという手順だったので、ゴチャゴチャといろんなことが書かれているライアンの申込み画面での規約をしっかり読まなかった。というのも、予約していくページを「続けて」いくと、いろいろな料金のことだけでなく、ホテルやレンタカー、空港からのタクシー手配やバスチケットの申込み、もちろん保険、その上、旅行カバンも売ってますよ等々、ともかくいろんなオファーがゴロゴロ画面に出てくる。それがうっとうしくて、細かな規約を読まないことになったのだ。その結果、料金が膨らんでしまった。大きかったのは、搭乗券を印刷していないことだった。上に書いた、普通のチェックインだと思っていたのが間違い。予約が完了したらチェックインをして搭乗券を刷り出さないといけないのだ。チェックインのカウンターで文句は言ったが後の祭り。搭乗券の再発行になってしまった。何と!70ユーロ。往復の運賃より高いのだ。
でも、キャンセルするわけにはいかない。むかつきながら、搭乗口に向かうと、別の驚きが待っていた。出発1時間半も前なのに、かなりの乗客が搭乗口に並んでいる。搭乗する機体は見えない。その内、ボーヴェ空港(小さな飛行場で発着陸時間がかからない)にベネチアからの便が到着する。出発25分前!乗客が降りきると、即、搭乗。機体へと走る乗客がいたことにも驚いたが、指定席がないからである。上で書いたが、指定席はエキストラ料金が必要なのでほとんどの客は自由席。機内ではちょっとした混乱が起こっていた。厳密に重量と大きさを制限された手荷物を入れる場所探し、そして空席探しのためだ。それも治まり、飛行機到着25分後ちょうどに、機体は離陸。超スピーディーである。
機内はシンプルそのもの。まず、座席前に雑誌等を入れるポケットがない。すべて自分でスペースを見つけて荷物を棚に入れる。早い者勝ちなのだ。アテンドは荷物の世話をしない。ぼくは座席に置いた。座席は窮屈。それにリクライニングがない。背筋を伸ばし(健康的だが)1時間半のフライト。機内の案内誌はアテンドが欲しい人だけに渡す。手に取るのはごくわずかなのは、平凡な記事と機内の飲み物とスナックの紹介と販売商品の紹介が中心で楽しくないからだろう。乗客たちはよくわかっている。もちろん、音楽などのサービスはゼロ。機内アナウンスは英語のみ。帰りの便の英語は、訛りがきつくて(アイルランド英語?)何もわからなかった。そして、機内には飲み物とスナックの広告。酸素ボンベの使い方のシールは座席裏に貼ってある。まだまだ書くことはあるが、すべてが超簡素化、あるいは効率化の飛行機である。削るものは削る。長距離格安バスが空を飛ぶ感じ。スーツケースをもってヨーロッパを旅行する人は遠慮した方がいいかもしれない。
好奇心からキョロキョロしている内にあっという間にベネチア、トレヴーゾ空港に到着。ベネチア本島から1時間半ほどの内陸部。バスの時刻表はあるが、「到着時間に合わせて発車します」の表示。バスまでもがスピード重視である。そして、ベネチア・ビエンナーレへ。
この現代アートの大祭典は、いつもと同じ。もう何回来たのだろうか。ベネチアという町が好きなので来るのだが、そこに現代アートという催しがあり、もうひとつの名所を提供してくれているのだ。今回は、テーマは「百科全書の宮殿」。ITとともに人間の「知」あるいは「知識」が変貌している現代、アートとともにそのことを考えるのは悪いことではないが、テーマが壮大すぎる。加えて、この問いかけには当然、「知」に対する批評性が不可欠なのだが、そうしたことは感じなかった。だから、普通にアート・フェスティバル。ベネチアなのでレベルは高いが、前回(2007年かな、最後のビエンナーレは)に比べて、ぼくの趣味を刺激する作品が少ない感じはした。アルゼンチンのエヴァ・ペロンをモティーフにした映像とインスタレーションがかっこうよかった。ぼくがペロン・ファミリーに関心があるためもあるが。ミュージカルや映画の「エヴィータ」よりもずっとよかった。現代アートもなかなかなのだ。メイン会場のジャルディーニとアルセナーレ、市中にあるいくつかの展示会場。それなりに見たが、ともかく大きなアートフェスティバルは疲れる。でも、ベネチアの天気が最高で、気持ちよさは、最高!(同じ単語を使うことを避けているのだが、ここは「最高」を繰り返さざるをえない)。何度もカフェに入り、ビールやカフェで休憩。これが「最高」なのだ。この休憩のためにビエンナーレを見学しているのかもしれない。ただ、今回は2日だけの滞在なので、慌ただしかった。ライアンエアーのようなベネチアビエンナーレ見学である。
ベネチアで、7月の終りに大学の授業の一環で行った瀬戸内国際芸術祭(セトゲー)のことも思い出した。規模は違うが、塩の香りのせいか?そのセトゲーで面白かったのは、作品よりも別のことだった。ひとつは、ぼくたちの乗った神戸からの夜行フェリー(ジャンボフェリー)の船内に流れた、衝撃的なコマーシャルソングである。その歌が3日間耳からは離れなかったのだ。最初に着いた坂手港ではヤマベケンジの作品が迎えてくれたが、頭にはコマーシャルソングががんがんと。いまいちヤノベケンジ的になれなかった。豊島へ、直島へと船に乗るたびに、その歌が頭の中で響き出し口ずさんでしまうのだった。
それから小豆島が巡礼の島であることを初めて知った(恥ずかしい!)。泊まったのも巡礼宿。1泊2食付きで5000円。安い!食事も充実。小豆島の巡礼は、四国より何年か早いと言う。ぼくたちセトゲーを見に来た人間は、巡礼者なのだ。アート巡礼。北川フラムは、そのことを意識しているのかな?アートという言葉はなかったが、中世の宗教的巡礼の現代版かとも思う。そこに資本主義的観光システムが絡んでいる。よく考えれば、観光と言う近代の旅行自体が巡礼にひとつの起源を持っているといえる。それはベネチアや他のビエンナーレも同じだ。21世紀、世界はアートを巡礼し始めたのだとも言える。幸せなことか、不幸の反映か?
さて、ベネチアからの続き。2日間の滞在を終え最終便でボーヴェへ。ライアンエアーには馴れたので落ち着いて搭乗。搭乗券も刷り出しておいた。ボーヴェは初めてだったので1泊したが、ホテルに着いたのが夜の12時近く。翌朝、ちょっとだけの町歩きで町の輪郭はだいたいつかめた。カテドラルが立派だが、普通のフランスの田舎町である。ただただ、初めての町というのが、旅行マニアには重要なのだ。
そして、ブルゴーニュへ。といっても、ワインで有名な南東部ではなく北部のオセールという町の近郊。友人のアーティスト、リワン・トロムール(トロムと呼んでいる)が廃墟となったオーカー工場を「アート(広い意味で)という創造」のための場にしているのである。「ガルロン」と大学院の葛本君が、そこで作業したいというので連れていったのである。どういった場所なのかを伝えるのはひどく困難だが、廃墟のもつ時間のエネルギーを風景として構築する、抽象的に言うとそんなことになる。1990年に始まってからもう20年以上。ぼくは90年から何度も訪れた場所である。2003年には、精華の学生6人と1週間ほど滞在し、ワークショップというのをした。楽しい思い出になっている。葛本君は1ヶ月近くいる予定だが、ぼくは1泊だけ。今年の夏の旅行は、とにかく慌ただしいのだ。結局、テーマは「ライアンエアー的」になってしまったのだ。そして、疲れた。戻ってきたパリではよく寝た。そうそう、帰ったらすぐに横浜での授業が待っている。夏休みはあっと言う間に終るだろう。日本も涼しくなっているという。