2012年11月7日水曜日

久しぶりの韓国、いろいろと・・・

これを書き出したのは、KTXという韓国の新幹線の中。光州ビエンナーレを見て、その翌日ソウルに帰るところだった。と、ここまで書いて、ブログのネタにと、10月の記録をチェックしようと、システム手帳をバックパックから取り出そうとしたら、これが、ない!ない!ない!鞄の方も探すけど、同様。そうだ、これは前夜のホテルに忘れてきたに違いないと、そこからアタフタ劇。パスポートが入っているのだ!
ホテルに電話をするが、フロントは韓国語しかわからない(もっと早くから韓国語を勉強しておくんだった)。結局、車掌さん(KTXの車掌は英語ができる)に頼んで電話をしてもらうと、あった!とのこと。そこで、途中のイクサンという駅から再度、光州に戻ることに。青い革表紙のシステム手帳は、ぼくにとっての必要不可欠物、これがないと何事も始まらないというものだ。パスポート以外にも大切な物や記録がぎっしり。その日、6時にソウルで精華のマンガを卒業した韓国の学生と、彼の女友達と約束をしているので、こちらも変更の電話。7時半にしようと。そして、再びこのブログを光州行きのKTXの中で書き始めたのだ。Wi-Fiが無料。完璧だ。ここで光州到着。次は日本に帰ってからの文章。
ただ、そのあとも大変だった。光州のホテルへのタクシーが道に迷うは(5分のところが40分近くかかってしまった)、光州からソウルに戻る列車も少ない。ソウルに予定時間に到着できないことがわかる。日本の新幹線の常識は外国では通用しないのだ。地下鉄のように到着・発車する新幹線は、すごいのか、ヘンなのか?というわけで、急遽、飛行機便に変更。何とか間に合いそうなソウル便があった!80000ウォン。韓国国内便は始めての経験である。もちろん、どうってことことはないが。結局、かなり遅れてソウルのホテルに着いたが、ジェオンくんとユジンさんはやさしく待っていてくれた。1日の走行距離はかなりのもので、その上、早足で歩いたので疲れたが、こうした経験も、旅行好きとしては楽しかった。
ともかく、2年ぶりに韓国にやってきたのだった。光州ビエンナーレを見ることが一応の目的。1年に1回くらいは、大きな現代アート・フェスを見ておこうと、観光ついでに来たのだった。前回(7〜8年前)の印象がよかったので、来ようという気になったのだ。前回よりパワーが薄い感じだったが、こうしたフェスは出展者が多いので、気に入ったものはかならずある。今回は、台湾とインドネシアの作家の物が気に入った。台湾のTu Wei-chengの動画前史を物理的に可視化した作品である。前史を造形することに意識的で、書かれたテクストよりずっと楽しめた。あとは、インドネシアのAgung KurniawanのThe Shoes Daiaryという作品。アディダスの靴に個人史を重ねたところが秀逸。ぼくがアディダス好きだからなのか。他にもまあまあのものがあった。こうしたフェスでいつも思うのは、数多い映像作品にどう対処したらよいのかである。コマーシャル映像のように30秒(もう少し短いか)に1回ほどは、刺激的な「ツカミ」があれば暗い空間に留まるのに、アート系には、そうした感覚は薄い。なので、自然、部屋に入ったときに「おおお!」と思わない限り、退出してしまうのだ。といっても、「ツカミ」とか、おしゃれといった事態を超えた映像作品はあるし、何度も経験した。光州にはなかったが。メイン会場を歩いたあと、同じ敷地にある美術館でリー・ウーハンの回顧的展覧会もやっていて、懐かしい!感じにちょっと浸った。このモダンな世界は現在の現代アートにどうのように繰り込まれているのか、ノスタルジーとともにそんなことを感じながら会場を散歩したのだった。
現代アートの世界はますますテーマを広げていっている。哲学、文化論、政治・経済学、科学、メタ・アート論などなど。といっても、言葉によるものはまれだから、イメージの表象力に頼ることになる。イメージ信仰。フランソワ・ダゴニェの言う「イメージのエクリチュール」が生み出す意味を読み取ることを要求するアート。ただし、このエクリチュールによって世界の何を掴み、何を理解しようというのだろうか。これは重要な批評的問題だ。このことについて誰かちゃんと書いている人はいないのだろうか。アートはほんとうに批評性を持っているのだろうか。何を言いたいのかはわかることも多いし、面白いものも少なくはないが、それがアートの外に流通する他の文化的言説とどこが違っているのか、そんなことをしっかり書いている人はいるのだろうか。そもそも、真面目にこんなことを考える必要があるのだろうかとも考える。
ビエンナーレあるいはトリエンナーレといった現代アートの祭典も、このところ形式化されてきたようにも思う。様式化。見る方も安心。作る方も見せ方を心得ている。こうした調和的な関係がはっきりしてきた感じもする。造形的な質は高いが(見せる、ということだが)、その「美的質」が何なのかが意識されていることはあまりない。そうしたアートの深い問題(?)に答える前に、この現代アート・フェスの様式化は、新しい観光資源としてますます発展していることは確かなのだ。そうした視点でのフェスも世界中で多い。アヴァン・ギャルドが終わってしまったいま、現代アートは、そうした文化消費の先端を担うことになっているのか。アート・ツーリズムが新しい旅行形式だとしたら、現代アートは文化のアバンギャルドということにもなる。芸術のアバンギャルドが文化のアバンギャルドへと変身している。その文化のことは何回か書いたので、といってもまとまっていないが、ここでは書かないが、アートが文化へとスライドしているとすれば、もっと面白い文化領域はある。そこでアートはそれほどの文化ではない。このあたりのことを一度はしっかり書きたいとは思うのだが・・・。
そんなことを考えながら光州ビエンナーレを半日近く見て回ったのだが、今回は、これまでしてみたいと思っていたことがいくつかできて、かなり楽しい旅行になった。ビエンナーレも素直に、この旅行的楽しさのひとつとしておくのがよいのかもしれない。楽しめたのは韓国の卒業生たちのおかげである。
まずは、インディーズ系のバンドを見ることができた。初日、ちょうど夕食を食べたホンデ界隈でロックフェスをやっていて、シン・ジヨンさんとキム・スヨンさんが予約をしておいてくれたのだ。彼女たちのお気に入りバンド、クライング・ナット(Crying Nut)。長いキャリアがあるというだけになかなかのパフォーマンス。ともかくノリがいい。アコーデオンが入っているのも気に入った。もうひとつハックルベリー・フィン(Huckleberry Finn、時間の関係で2曲しか聞かなかったのだが)もストリングスの入った編成がしゃれていた。まあ、そんなわけで、ホンデ地区の人気ピザ店でピザを食べ、そのあとライブ。最高の夜だった。韓国でピザの定点観測をやっているが、人気店の人気の理由はわからなかった。ぼくのランキングでは味はB+。ランキングは最高がAA、次にA+、A、そしてB+、Bと続く。これまでのAAはまだ2店だけ。だから。普通のピザだったのだ。何年もソウルでピザを食べていると韓国のピザのレベルはかなり上がってきたのはわかる。ただし、グラスワインのバラエティーが少なすぎるのはなんとかしてもらいたい。韓国はボトル主義らしい。
光州では、これまた精華のマンガの卒業生で現在は大学で教えているイー君とイホ君が、光州名物の豚料理のレストランに。これは美味しかった。そして、よもやま話。翌日(パスポートを忘れた日)は、昼に駅の食堂で、長い間食べたいと思っていたラーミョン(ラーメンのことだが、韓国ではインスタント・ラーメン)を注文。黄色のアルミ製の一人鍋に入ったラーミョンは、チープがチープであることを恥じらいもなく主張する、そのいさぎのよさが感動ものだった。味?そうしたことを言わないのがチープであるということだ。
そのチープの反対、おしゃれで高級なワインバーにも入った。ソウルのインサドンの北側の地区。現代アートのギャラリーやおしゃれなカフェがある、グローバルおしゃれ感覚の店がある界隈。以前入った庶民的なワインバーとは違い、こちらはセレブが来てもよさそうな、あるいは韓流スターが来てもおかしくないような雰囲気である。まあ、ユジンさんがいたから入れたとも言えるが。そのワインバーでは、ボルドーやブルゴーニュなんかは高くて(前日のラーミョンのことが残っていたためかもしれない)とても頼めない。結局、チリワインに。悪くない選択だった。ここでも、マルゲリータをつまみとして注文(B+)。そのおしゃれなワインバーで、ぼくとジェオンくんは日本語で、ユジンさんとはフランス語で。彼女は5年以上もフランスのアヌシーの美大で映像を勉強して帰ってきたばかりなのだ。すごく感じのいい人だし、作品もなかなか。
そして最終日に感動の2時間が。韓国で始めて映画館に入る。チョンロ3路のロッテシネマ。イ・ビョンホン主演、助演が何とハン・ヒョジュという理想の映画。ユジンさんも推奨だった。記録的な観客動員になっているとか。タイトルは「光海、王になった男」。字幕はないが楽しめた。ハン・ヒョジュの出番は少なかったし、「トンイ」のときの方がよかったが、悪くはなかった。調べてみると、この映画はこの秋、パリで行われている、これまでに類のない「韓国映画フェスティバル」のオープニングを飾っているとか。ハン・ヒョジュはこれまで映画に恵まれなかったが、やっといい映画にでることができたと、素直にうれしい。でも、ますます人気がでてきて、長年のファンからすれば、やっぱりちょっとね。イ・ビョンホンはさすが。これで、チャン・ドンゴンを超えた。
世界は広い。韓国も行くたびに新しいことがある。