2012年4月5日木曜日

ワインとコーラの国


帰ってきた京都の桜は遅く、そして少し寒かった。パリが夏ような春だったこともある。そして、いつもの時差ボケ。歳とともに、これが長引くし、けっこうつらい。そして、やっぱりカルチャーショック。向こうが素晴らしくて、こちらが冴えないということではない。2つの文化の違いへの戸惑いだ。それほど長くはない滞在なのに、そんなことになるのは、パリ滞在にやはり馴染んでいたということだろう(「やはり」というのは、前のブログで同じことを書いたので)。でも、日本の日常(ぼくのだけど)にやっぱり早く馴染まないと、仕事もできないな、と思って、さっそく韓国映画を借りてきた。韓流ドラマではないのは、何を見たらいいのかわからなかったので、まずは映画からという気持ちになったのだ。そして、日本芸能界の典型、バラエティー(子供が録画しているので見さされる)やワイドショーをまったりと見る。NHKのニュースも芸能界バラエティー風だ。ニュースというのは新しい情報伝達ということだが、それが伝達以上に事件・出来事の説明・解説になっている。説明のために、あるストーリーが必要となる。その物語が平凡だ。事実の伝達という意識がフランスと違うように思う。いいとか悪いとかではない。それぞれの文化の問題である。それから、馴染みの喫茶店やレストランに行き、職場に行き、近くのコンビにと、去年の8月までの習慣を再履修しているのだ。これも楽しい。来週からは授業も始まる。8ヶ月の記憶は、少しずつ後退していき、いつもの「いつも」が始まるのだろう。
こんな1週間を過ごしつつ、パリ滞在記のようになった8ヶ月間のブログで書き忘れていたこともあるな〜と思って、その余録を書いてみることにした。
パリはどうでしたか、と会う人ごとに聞かれる。一種の挨拶だが、こうした経験を人に伝えるのは難しい。すべてが何となく自慢話になって、聞く人をうんざりさせてしまうことが少なくない。そういうことでは、ブログがあってよかったとも思う。この私的「的」な現代の日記は、なかなかいいと最近思い始めた。
パリのラーメンのことは書いたが、フランスといえば、グルメ、ワイン、ファッションというのが定番。ラーメンや日本食のことは書いたが、おフランス・グルメについてはほとんど書いてこなかった。ファッションは別にして、フランスにいれば誰でもグルメに挑戦ということになるので、ぼくもそれなりに観察・実践をしてきた。
とくにワインは必須なので、何とかワイン通になろうと最初の頃は気を入れた。といっても、フランス高級ワインはうるさい人も情報も多いので、チープなワインの通になろうと思い、5ユーロ(550円くらい)までのワインの通になろうと思ったのだ。これは挫折した。結局、そうしたワインでは、そんなに差がないという、当たり前のことがわかっただけだった。そうしたワインは「味わう」という感覚も薄い。評判のチープワインを友人が持ってきてくれたが、美味しいが、含みはもうひとつ。それから、少しレベルを上げ、6〜10ユーロ前後までのワインへと上昇。やっぱり、こっちの方がうまかった。「うまかった」というのは「飲む」という動詞に接続していて、「味わう」ということではない。もちろん、辛口甘口、ぶどうの種類、重たいもの軽いもの等々のバラエティーには富んでいるように思えた。このクラスはやっぱり「味わう」という感覚のちょっと手前。グラスを回し香りを嗅ぎなんてことをしても、ひどくは変わらない。やっぱり、15ユーロ(1600円)は出さないと、グルメ的ワインにはぶつからないというのが結論だ。何か、すごくつまらない話になってしまった。これも時差ぼけ?
こんなこと書いてみたけど、実は、ワインについてあまりわからなかったのだ。ただし、ひとつわかったことは、フランス人もワインに詳しくないということである。ぼくはここを勘違いしていた、そのことがわかったのだ。彼(彼女)たちとワインを飲むと、けっこう講釈をしてくれる。この地方のここのワイナリーは、とか、このぶどう種云々等々。その講釈に戸惑わさせられていたのだ。でも、それは話だけの場合が多いということらしい。ワイン屋の店員が教えてくれた。ほとんどが口だけだよ、と言うのだ。ほんとうに味を知っている奴なんか、ちょっとしかいないよ。安心して!と、本当に安心させてくれた。ワインのフランス的呪縛から解かれたのだった。
もうひとつ驚いたのは、コカコーラを飲む人の多さだ。ファンタやオランジーナといったソフト飲料をはるかに超えている。それも、この10年近くでかなり増えてきたような印象。ガキから熟年まで。カフェでレストランで、コカを飲んでいる人を見ないことはない。ちょっとしゃれた料理にもコカ。日本よりはるかに多い。え〜、コカコーラでご飯?と、何人かに聞いてみたが、理由はよくわからない。身体にいいと言う人もいたが、どうもこじつけ。フランスの人はこのことにあまり気づいていないようだ。ワインの国フランスはコカコーラの国でもある。おフランスになりたい人は、コカを常飲することだ。ぼくには何か変だが、これも多様性との共生という現フランス社会の理念の、無意識的実践なのか。ワインとコカの共存を見ていると、フランスが美食の国とは思えなくなってくる。もちろん、何回か行った1つ星以上の高級レストランでコカを飲んでいる人は見たことはないが。ソムリエとのワイン談義で始まる、そうしたレストランも、多様性のひとつということかもしれない。

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