2011年8月21日日曜日

緑の光線、ノルマンディー、ジェーン


「緑の光線」を見た。夕日が海岸線に沈む直前に、太陽が緑色の光を放つ、その光線のことだ。珍しい気象現象らしい。エリック・ロメールの映画のタイトルとなり、映画でもその光が映しだされていた。その光線を、下ノルマンディーのクタンヴィルという小さな避暑地の海岸で目撃したのだ。シャッターを押したが、映ってなかった。ぼくが見たのは、光線というより、太陽が緑色になったという感じで、「緑の太陽」あるいは「緑の夕日」といった感覚だが、初めてなので、見終わったあとの感動は、いうまでもがな。夕日が水平線にしだいに沈み始めていき(この光景も素晴らしい)、空が朱色と青色の光に覆われ、最後に、それも一瞬だけ緑の光が、太陽が・・・。
自分の感覚で太陽が緑と感じたら、そのように描けばいいと書いたのは、明治43年の高村光太郎だった。緑色の太陽は美術における反自然主義的な主張のキーワードだったのだが、こうして実際に目撃すると、自然は人間の想像力をはるかに超えることがわかる。反自然主義よりも自然主義のがずっと大きい考え方だとわかる。こんなことを書いていると、「緑の光線」の魅力が失われる。翌日は、雲が多くて見ることはできなかった。
週末を過ごしている、この海岸地帯は、これもロメールの「海辺のポリーヌ」という名作の撮影が行われたところで、いかにもフランスらしい海岸の避暑地(こちらの思う)。加えて、美味しい食べ物。最初の日の夕食は、ここの主人が釣ってきたサバの蒸しオーヴン焼き。次の昼はムール貝とフライド・ポテト、夜は牡蠣。このあたりの名産である。そして、それぞれの食べ物にピッタリのシードル、ワイン、そしてカルヴァドス。リンゴの産地でもあるノルマンディーはグルメ地方なのだ。こんな食事の間に何年かぶりの水泳。あ〜あヴァカンス。
そのついでに、この地方でも知られた教会、クタンスという町のノートルダム聖堂を、友人でアーティストのジェーン(昔はジェニーと言っていたのだが)のお母さんが案内してくれた。彼女はプロのガイドで、知識は半端ではなかった。前にはモン・サン・ミシェルのガイドもしていたそうだ。ここは、その観光の聖地に近いところなのだ。行こうと思ったが、夏は人が多すぎるので冬に行こうということになって、近くのクタンスという町へ。
ノルマンディーの教会建築のことはまったく知らなかったけど、もともとのローマン様式(古代ローマの建築に発するが、ヨーロッパ各地でさまざまな地域性をもつ)がフランス王の征服によってゴシックへと変わっていった痕跡がはっきりとわかり、すごく面白かった。というのも、お母さんの配慮で聖堂内部に入ることができ、建物の内部を見ることができたからである。概観は華麗なゴシックだが、内部は、その前のローマンを残しているところも多かった。ローマンといっても、ノルマンディーのそれはかなり重たい感じだ。それが華麗なゴシックに変わる。そのとき北ヨーロッパは真のカトリック王国を確立することになったのではないか、そんなことを想像させる。
あと、ちょっとだけジェーンのことを書こう。彼女のことは、この4月に精華の卒業生たちの展覧会のパンフレットに少しだけ書いた。京都の室町アートギャラリーで行われた「美しき町」というグループ展だ。少し前にジェーンから送られたフランスの田舎町でのワークショプと、「美しき町」のイメージがリンクしたこともあった。
彼女は7年前、1年ほど京都にいて親しくしていた。カーンという町の美大を卒業して、アーティストを目指していた。その彼女がちょっとした障害を克服し、2年前には母親となり、再びアーティストへの強い希望を持ち活動しているのである。そんな彼女の姿は、「アートとともに生きる」ことの意味を考えさせてくれたのである。日本で一度展覧会ができたらと思う。
そんわけで、短い週末のノルマンディーは終わった。フランスのヴァカンスはあと少し。

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