2011年11月15日火曜日

砂漠のロック、小さな町のロックフェス、テト・レェド


週末を利用して、低地ノルマンディー地方のSt-Lo(サンロー)という小さな町に行ってきた。そこでやっているロックフェスを聴くためである。ジェニーという知り合いのダンナさんニコが、プログラミングの責任者ということで、来ないかと言ってくれたからだ。人口25000人の町でのロックフェス?と思っていたけど、これが大間違い。日本の「町おこし」ではまったくなかった。火曜日から日曜日まで6日間続く本格的なフェスで、出演ミュージシャンも30組近く。といって、フジロックのような大観衆がいるわけではない。夏だったら小さな町でも大きなフェスがあるが(場所の問題で)、この季節では珍しいのではないだろうか。フェスのタイトルはLes Rendez-Vous Soniques。そして、この「出会い」(Rendez-vous)ということが、きちっとプログラムされたフェスだった。最大の会場で1000人くらい、他の2つは、ちょっと大きめのライヴハウスといった感じ。町の劇場や体育館などを使っている。そうした会場で、午後から深夜まで、ライヴが行われるのだ。
滞在2日ちょっとなので聴いたのは7グループくらいだが、アメリカのレゲエ・グループ、ベルギーやカナダのロック・グループ、もちろんフランスのニュー・ポップというか、さまざまなグループやソロも。有名どころから新人まで、日本では知られていないグループがほとんどだ思うが、そのヴァラエティーがすごい。といって、乱雑なものではまったくなく、企画に1本芯が通っていた。小さな田舎町でのフェスの意味、ロック音楽の意味、招待されたミュージシャンたちの世界への構え等々、フェスにひとつの世界観があったのだ。後期資本主義のシステムが抱える窪みというか、というより、そうしたシステムだからこそ生まれる窪みを組織するのに、こうしたロックフェスという方法があったか!、そんな大げさな感じまでもってしまった。
なかでも驚いたのは、アフリカの砂漠の遊牧民の音楽をロックにしているTerakaftというグループ。アフリカのマリで結成されて10年。最近、ヨーロッパのライブシーンによく出るようになったとか。ぼくの勤める大学のサコさんという教師と同じ出身。知ってるかな?ともかく、初めて聴く音で、びっくりした。顔にターバンを巻いていたので、始めはこれはアラブ系過激派のバンド?と驚いたが、少し時間がたつとアラブの旋律やリズムとは違っていた。シンプルなメロディーとリズム。でも、それが身体にしみてくる。メイジャーなロックにこんなリズムはないと思う。思わず身体が動いてしまい、あとで節々がちょっと。ジェニーの2歳の子供は、この音楽が一番好きだとか。泣き止むらしい。なるほど!
それから、Cascadeurというソロも面白かった。ボーカル、音響、映像を動員してのスピード感あふれた音楽だった。現代アート的ロック?。それから、セルジュ・ゲーンズブールの最後の奥さん(ヴェトナム系らしい)との間の息子、ルルーが歌ったゲーンズブールの名曲、「ぼくは出て行くよと君に言いにきた」。伝統のシャンソンだが、偉大な父親と息子の物語がかぶる。アメリカで音楽の勉強をして、最近やっとフランスに帰りデビュー。父親を吹っ切れて、愛せるようになった息子の父親へのオマージュのような歌になった。泣けた。ジョニー・ディップ似(友達でもあるらしい)の美男子で、女房はたちまちファンに。
こんなこと書いていくときりがないが、このフェスは、サンローという町と地方府がスポンサーになっていて、運営にも町の人がボランティアしているとのこと。2年ごとのフェスは今年で4回目。最初は3000人くらいの規模が、今年は1万人を超えた。毎年のフェスにニコはしたがっている。そして、続けることができれば、このフェスは大きなものになっていくだろう。それだけの思想をフェス自体がもっているからだ。すべてに思想が必要だ。昔風のイデオロギーではなく、何と言ったらいいか、世界へのスタイル。
そして、今週はもうひとつパリでコンサート。音楽月間になってしまった。テット・レェド(Tetes raides)。この10何年間で一番好きなグループで、何曲も耳に焼き付いている。80年代後半に結成されたというから、長いキャリアだ。パンクから出発し、現在はシャンソン、ポップ、ワールドミュージック等々、オールタナティヴといったらいいのか、いろんなものが混じり合っている。リリカルで音楽にスピード感があり、歌詞カードを読むと、すごく詩的だ。ライヴではクレーアニメをオープングに使ってもいた。幅が広いし、ジャンルを越境するところも魅力だ。その音楽活動は、グループの政治参加と密接に結びついている。
マイノリティーを徹底的に支持する左翼だ。こう書くと、何かうさんくさいと思う人もいるかもしれないが、それは日本の政治参加のスタイルの問題だろう。テト・レェドの歌詞にはそうしたメッセージがあるのだろう。そのラブソングも秀逸だ「ジネット」(Ginette)という曲は歴史的名曲ではないかと思っているのだが。でも、人さまざま。政治と愛は、ほんとは一緒のことなのだ。

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