2011年11月20日日曜日

パリの図書館

テェト・レェド(les têtes reides)のコンサートは思った通りで感激だった。ロック色が強くなっていたけど、スピリットは変わっていない。前座も含めて3時間半。名曲「ジネット」のメロディーとステージ感が頭の中にいつまでも残った。翌日、iphoneを耳にいつものフォルネイ図書館へ。サンポールという地区にあるパリ市が運営する図書館である。サンス館という昔の館をそのまま使っているのでなかなか重厚である。人も少なく、ぼくのターゲットにしている資料が充実しているので、ここを日課としている。イベントに出かけているばかりではないのだ。その図書館のことを少し書いておこう。これこそフレンチ・ライブラリーである。本当は、見果てぬ古本屋兼喫茶店の名前なのだが。
パリには図書館が多い。国とパリ市の図書館、そして美術館や博物館付属の図書館(これは特別な許可がいるのだが)、大学や高校の図書館。まだ他にもあるかもしれない。パリ市のものは国に比べて一般的で国の方は専門的といったらよいか。国立の図書館については政府の強い意志が働いている。1980年代の中頃だったか、かっての大統領フランソワ・ミッテランが世界のパリ計画をとなえ、その一環として「世界最高の情報ベース基地」を作るということになったのだ。中華思想の国であるフランスは、とくに文化に関しては1番が好きなのだろう。それでこそ、アメリカと対抗できるということかもしれない。
そのミッテランの意思は、20世紀の終わりに実現し、ミッテランの名前の付いた大図書館をつくってしまった。4つのタワーからなる建物はドミニク・ペローの設計。建物は気に入っているが、個人的には前の国立図書館の方がいい。オペラ座界隈のリシュリュー通りというところにあって、こちらは19世紀のアカデミックな、いかにも学問という感じの雰囲気が、極東の研究者たちを酔わせていたところである。この建物は、もちろん今でも健在で、図像や地図などを所蔵する国立図書館別館になっている。ぼくが関係するのは、その別館に同居する国立美術史研究所図書館というところである。もともと、初期のファッション・デナイナー、ジャック・ドゥーセという人のコレクションをもとに、パリ4大学付属の美術史・考古学図書館となり、21世紀に入っていくつもの大学の図書館が統合され、美術史と考古学の専門的なの総合図書館になったところである。これまでよく世話になった図書館である。当然、資料点数はものすごい。院生や研究者にはすごく便利なところである。また、ラーメン街が隣接していることもあって、日本人にとっては、昼飯に軽くラーメンができるので(この言い方いいですね)、またまた便利なのだ。今回は、研究所に居候させてもらっているので気軽に行けるようになってはいるのだが、実際にはほとんど行っていなくて、最初の方で書いたフォルネイというパリ市の図書館に行っている。一般の図書館で専門ギョーカイの仕事をするというスタンスも気に入っている。
図書館の人たちが、この2ヶ月程でやっと認識してくれ、冷ややかな対応が微笑み対応となってきた。フランスは親しくなるのに時間がかかるのだ。この図書館に通っていると、自然、パリ市の図書館事情が耳に入ってくる。一言で言えば、活動が多様でサービスも結構なものだ。受付の人の笑顔という意味ではなく、システムがしっかりしているという意味である。毎週、何らかのイベントをやっていてそれなりの人を集めている。フォルネイ図書館では、「ガズ展」という都市ガスの歴史を実物のガス製造機、ガス器具、図像を使った展覧会をやっていた。図書館で何で?と思ったが、こんなのもありなのだ。結構面白かった。
詩の朗読や本の著者による自作紹介とサイン会(出版社の差し金ではない)、展覧会といったことは普通だが、気をそそるものも少なくない。「ガス展」に続いて行こうかと思っているのは、いつも乗るバスの道筋にある推理小説図書館の「殺人者の口ーレオナルドからフェデリコ・フェリーニまで」。こんなことを研究していて、それを図書館で企画できるなんてと感心。
その他、音楽(ロックからクラシックまで)、ダンス、芝居等々、図書館というより文化センターである。おそらく、そうした意識が強いのだろう。それから文化や科学に功績のあった人の名前をもった図書館も多く、これもいい。トリュフォーはもちろん映画図書館、マルロー、レヴィ=ストロース、デュマ、デュラス、ビュフォンなどなど、フランスというか近代に名を残した人たちの名前が図書館の名前なのだ。そういえば、パリの通り名にも人の名前が多い。歴史化するというのはこうしたことでもあるのだ、といつも思う。歴史化とは、ある部分、広く社会に貢献した人物への敬意を市民が払うということだからだ。
さらに、どのくらい前からか知らないが、映像やマンガ、アニメなどを集めるメディアテークも多くなってきた。アパートから近いところにも作家ユルセナールの名をもつメディアテークがある。こちらは文化的ツタヤ。ここでも催し物が多い。この前は、日本のマンガとアニメ大会をやっていて、子供から高校生までにアンケートをとっていた。「どのマンガが一番好きですか?」というもの。興味があるので、結果をもらいにいこうと思っている。図書館やメディアテークの催しは、タダとか小額の入場料しかとらないので、文化を堪能するにはもってこいだが、といっても、前にも書いたように、これも「文化の狂乱」のひとつ。「何かしなければ」という強迫観念に取り憑かれているような。となると、「何もしないこと」が貴重にもなるが、現代社会では、誰もできないことだ。自然を相手にすればよいという人もいるだろうが、自然は文化と一体になり、すでに自然という文化になっている。こうなると、文化とのつきあい方が一番大切になってくるはずだ。好奇心で歩いていれば、そんな方法も少しはわかってくるのかもしれないと、うろうろするのである。


1 件のコメント:

  1. ポンピドーセンター以外の美術系に明るい図書館を探しておりまして、貴ブログにヒット致しました。火曜日も開いている事を期待して、ラーメンの下心も持って、両館挑戦してみたいと思います。ありがとうございました。

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