2012年1月8日日曜日

ブエノスアイレス1、モザイク都市



正月休み(クリスマス休み)を機会に、アルゼンチンに来ている。昔から一番来たかった国のひとつだ。そのことに加えて、10年前に、エゼキエル・リナレスという画家を知ってからは、ともかく、その作品を見ることも大きな動機になった。サッカーのためでしょう、と言われるがそうではない。アルゼンチンの選手は好きだが、この国のサッカーリーグにはそれほど興味はない。でも、大観光地ボカ地区でマラドーラ人形と写真はとってしまったが。
ともかく、ブエノスアイレスは、ほんと気に入った。まず、カフェの町だった。通りが交差するほとんどの角に、昔からと思えるカフェ(バールでもある)があり、広くてくつろげる。もちろん、おしゃれ地区には、世界の大都市のどこにでもあるしゃれたデザイン・カフェがあるのだが、それよりブエノス市中のカフェだ。コンクリートやタイルの三和土に木製テーブル・椅子、そしてきちっとしたギャルソンのいる、一見変哲もないカフェである。スペインやポルトガルにもあったが、ここのカフェの方が昔風だ。そこで、たいていはキルメスというビールを飲み、ギャルソンと一言二言。お腹がすいたら、ピザかなんかを頼む。イタリア移民が多いとかで、ピザはこの国の常食のようだ。でも、とりたてて美味しくはない(3件くらいの印象)。でも、ギャルソンがピザの1ポーションを、大きな鉄製のコテのようなものでとりわけて皿によそってくれる、その感じがいい。昔のイタリアの伝統なのか?わからないが、そんな長く続いている習慣が残っている。
そんなカフェの中で、宿Chillhouse(バックパッカー御用達の評判のホステルで、その高級部屋を予約したのだ)近くに、最高のカフェを見つけた。Cafe Bar ROMA。ローマ・カフェ。19世紀か20世紀初頭の雰囲気である。80歳近くの夫婦がやっている、すごくさびれたカフェ。昔は、立派なカフェだったんだろうという気分は、壁の上部を埋め尽くす古い酒瓶や看板からも想像できる。客は老人だけ。ぼくもそうだから気にならない。そうした老人たちが、コーラやスプライトをテーブルに置き、何をするともなく座っている。近代アルゼンチンが固定している感覚がある。
ブエノスアイレスは近代が色濃く漂う町である。カフェの雰囲気以上に、カフェの入る建物が魅力的だ。近代コロニアル(植民地)スタイルの建物がすごく多い。ちゃんと勉強していたらと残念でしょうがないが、そうした建物は、ヨーロッパ各国、そして時代を反映しているのだろう。スペイン風、イタリア風、フランス風といった「風な」建物はアルゼンチンの歴史を語っているに違いない。植民がもたらしたモザイク性。それに加えて、いわゆるモダンな近代建築、そして、ここ数十年のポストモダン建築。この3つからなるモザイク。これが現在のブエノスアイレスという都市を建築的につくっているとみえる。近代建築史が重層的に顕在化しているとみえる。
その都市を無数のバスがやたらとスピードをあげて走りまくっている。ロンドンのように節度はなく、運転は荒く(だからよく転けそうになる)、そのうえ、旅行者に便利なカードなどはないので、毎回、小銭を料金箱に入れなくてはならない。ポケットがいつも小銭でガチャガチャすることになるのだ。市内は1回24円と驚くほど安い。地下鉄も同じ。大都市の割には路線が少なく、いつも満員。クーラーはなし。いまは真夏で、1回乗ると汗がドドーと出るので、バス利用に切り替えた。車両も改札システムもまだ近代のまま。写真や映画で見た1930年代あたりの地下鉄の感じ。こうした公共輸送の安さが食べ物とかに反映しているわけではない。物価はけっこう高い(タバコは安い)。ピザもほぼ日本と同じ値段。
いろんな物や事が、ある一定の基準であるというのではないような。こちらの人はそうなんだろうけど、旅行者からすれば、なんかチグハグな感じを受ける。ほんとモザイクの魅力。こんな印象をもちながら、バスに乗りカフェでキルメスを飲んでいるのだ。天気は素晴らしくいい。真夏の空の下にクリスマスツリーやサンタ人形が飾ってあるというのも初めての経験。そう、南半球なのだ。

0 件のコメント:

コメントを投稿